第9回 かわいそうだな。
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だん、だん、と床に叩きつけられるボールのことを、かわいそうだな、と思った。
早朝にもかかわらず、数人が体育館に来て人の自主練を見物している。放った球が飛んでいく先なんか、彼らみんな気にしちゃいない。
何かに追われて生きるのと、誰にも見つけてもらえずに死ぬの、どっちのほうが悲惨だと思う?
指名手配、ねぇ。
落ちて弾んだボールを蹴り飛ばしたら、少しも引っかからずに輪っかに入った。すごく白い日だ。ブラックポイントを下げたような乳白色の視界が矛盾して不自然に鮮やかに尊い尊い苦しい。
まばゆさはいつだって、滑って頭を打ちそうなぬめりけをはらんでいる。
「早いな」
あ、雪野快斗のバッシュの音。
振り返ると、つま先に泥がこびりついた外履きがその手にぶら下がっていた。あのかっこいいロードバイク、壊れでもしたのか。
「7時過ぎるの久しぶりじゃない? 生徒会の仕事、残ってたっけ」
「いや、いろいろあって。あとで話すわ」
更衣室へと消えていく背中が珍しく不満げに切なくて、すごくすごくどうでもよかった。
©︎Nanako Otake / Studio AOIKARA